<第13回基金賞の入賞者と選考経過> 

★基金賞(=大賞1点)
東京新聞編集委員、半田 滋氏の「新防人考・変ぼうする自衛隊」(東京新聞・中日 新聞連載)
★奨励賞(6点)
◆飯田市歴史研究所(長野県飯田市)編の「満州移民 飯田下伊那からのメッセージ」 (現代史料出版)
◆沖縄県ハンセン病証言集編集総務局(沖縄県名護市)編の「沖縄県ハンセン病証言 集」(沖縄愛楽園編、宮古南静園編、資料編)
◆大阪国際大学名誉教授・元共同通信ワシントン支局長、金子敦郎氏の「世界を不幸 にする原爆カード」(明石書店)
◆フリージャーナリスト、熊谷 徹氏(ドイツ・ミュンヘン市)の「ドイツは過去と どう向き合ってきたか」(高文研)
◆日本テレビ放送網制作の「ネットカフェ難民」<07・1・28放映>「ネットカフェ 難民2」<07・6・24放映>
◆記録作家、林えいだい氏(福岡県田川市)の長年にわたる執筆活動
★荒井なみ子賞(1点)
ライター、山秋 真さん(神奈川県藤沢市)の「ためされた地方自治 原発の代理戦 争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年」(桂書房)
選考には、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、坪井主税(札幌学院大学教授)、原一男(映画監督)、前田哲男(沖縄大学客員教授、軍事評論家)、山谷哲夫(ドキュメンタリー監督)、由井晶子(元沖縄タイムス編集局長)の6氏があたりました。候補作品は45点(うち映像関係は10点)でしたが、審査の結果、8点が選ばれました。
■大賞にあたる基金賞には、東京新聞編集委員、半田滋氏の『新防人考・変ぼうする自衛隊』が選ばれました。これは、東京新聞・中日新聞に今年1月から連載中の企画記事で、これには政治部の本田英寛記者、横浜支局の中山高志記者も協力しています。企画の狙いは拡大する自衛隊の海外活動を検証することにあるとのことですが、選考委員会では「自衛隊に関する報道では、防衛省の発表をそのまま書くいわゆる官製報道が多いが、この企画記事は自衛隊の変ぼうを現場から描いている」「現場の指揮官や隊員の証言を丹念に紹介している」「専守防衛を原則としてきた自衛隊が、国防とは無関係の海外活動をどんどん広げ、憲法9条との整合性も危うくなっている現状を的確に伝えている力作だ」「何よりも現場を重視することが求められるジャーナリストの模範がここにある」といった賛辞が相次ぎました。
■奨励賞には6点が選ばれましたが、まず、飯田市歴史研究所編の『満州移民 飯田下伊那からのメッセージ』は、満蒙開拓民(満州移民)が全国一多かった長野県の中でも最も多くの移民を送り出した飯田下伊那地域を対象に満蒙開拓の歴史、その状況を明らかにしたものです。選考委では「国策によって進められた満蒙開拓の実態がいかにひどいものであったかを如実に伝えている」「開拓に従事した人たちからの聞き取りを市民運動の形で進めていることに敬服する」「素晴らしいレポートで、満州移民について学ぶ上でバイブルとなるだろう」などといった声が上がりました。
沖縄県ハンセン病証言集編集総務局編の『沖縄県ハンセン病証言集』は、5年かがりで刊行された、沖縄の二つのハンセン病療養所入所者の証言集です。収録された証言は200以上、聞き取り調査に加わったボランティアは130人を超える。選考委では「ハンセン病隔離政策の実態を明らかにする貴重な記録」「特筆すべきは沖縄戦下の体験が述べられていることで、これにより私たちは戦時下のハンセン病罹病者の生活がいかに過酷なものであったを知ることができる」などといった意見が出て、奨励賞に決まりました。
金子敦郎氏の『世界を不幸にする原爆カード』は、第2次世界大戦末期に広島と長崎になぜ原爆が投下されたかを追跡した論考です。選考委では「原爆の開発から投下までの過程を実に丹念に、しかも多面的な視点から検証しており、いわば原爆問題の集大成といえる」「長年にわたる研究成果で、米国の文献もよく読み込んでいる」と評価されました。
熊谷徹氏の『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』は、1990年からドイツに在住しているジャーナリストの筆によるレポートです。日本とドイツは同じ敗戦国でありながら、戦後は際だった違いをみせている。ドイツは、周辺諸国と強固な信頼関係で結ばれるに至ったが、日本は周辺諸国といまだにぎすぎすした関係を続けている。この違いはどこからくるのか。熊谷氏は「それはドイツ人が過去との対決をいまだに続けているからだ」として、その努力を政治、教育、司法の分野などで論証しています。選考委では「これほど日独の違いを深く論じたレポートはこれまでなかったのではないか」「ドイツの要人にインタビューしたり、ドイツの文献を読み込んでいることも、この本を説得力あるものにしている」とされました。
林えいだい氏は、これまで、朝鮮人強制連行、朝鮮人皇軍兵士、日本軍兵士として召集された台湾の先住民、特攻隊、BC級戦犯、公害などをテーマとする著作を発表してきました。それらは、実に51冊にのぼる。そこに一貫して流れているのは、戦争によって苦難の生涯を送らざるをえなかった民衆の嘆き、訴えです。選考委としては、こうした長年にわたる執筆活動に満場一致で敬意を表すことにしました。
そのほか、中国新聞社こども新聞編集部の『ひろしま国 10代がつくる平和新聞』と東琢磨氏の『ヒロシマ独立論』が最終選考まで残りました。
■映像部門では基金賞の該当作はありませんでしたが、日本テレビ放送網制作の『ネットカフェ難民』『ネットカフェ難民2』が奨励賞に選ばれました。いわゆるネットカフェ難民の実態に迫ったドキュメンタリーです。選考委では「底辺で生きざるをえない彼らが何に怒り、何に悩んでいるかがリアルに描かれている」「同じ人間としてネットカフェ難民に接しようとしている。そこには、同じ人間として彼らに連帯・協同しようという視点が感じられる」との賛辞が寄せられました。これを制作したディレクターの水島宏明氏は昨年、『カナリアの子供たち〜検証・化学物質過敏症』で奨励賞を受けている。連続受賞です。
■協同関係は、推薦1件のみで、今回も授賞作がありませんでした。
■荒井なみ子賞は5年前に創設されましたが、今回が2回目の授賞です。女性のジャーナリスト、あるいは女性がかかわる問題をテーマとした作品を対象としていますが、今年は、山秋真さんの『ためされた地方自治 原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』に贈ることになりました。これは、珠洲原発を建設中止に追い込んだ珠洲市民の運動を追った記録で、山秋さんは、神奈川から珠洲まで10年以上にもわたって通い続けて運動をフォローし、原発をめぐる人間と地域の変容を描きました。選考委では「原発が地域に何をもたらすかがよく描かれている」「一つのテーマを追い続けた粘り強さに敬服する」と称賛されました。
|