
平和・協同ジャーナリスト基金は2025年12月3日、今年度の第31回平和・協同ジャーナリスト基金賞を発表しました。応募・推薦作品93点(活字部門41点、映像部門52点)から入賞作を8点(基金賞=大賞1点、奨励賞6点、荒井なみ子賞1点)を選びましたが、基金賞=大賞を受賞したのは沖縄タイムス社編集局の「沖縄戦80年 鉄の暴風吹かせない キャンペーン」でした。
贈呈式は12月13日(土)午後1時から、日本記者クラブ大会議室(東京・日比谷の日本プレスセンタービル9階。地下鉄霞ヶ関駅下車)で開きます。一般の人も参加出来ます。入場無料ですが、贈呈式後の祝賀パーティーは会費をいただきます。
第31回平和・協同ジャーナリスト基金賞の候補作品は推薦・応募合わせて93点でしたが、内訳は活字部門41点、映像部門52点でした。今年度は、これらの候補作品のテーマが極めて多様多彩であったことが、まず選考委員の目を引きました。これまでは、戦争、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、憲法、安保、沖縄、人権なといった課題を論じたものが大半でしたが、今年はこれらに加えて、戦後80年に関する報道の他、冤罪、ジェンダー、子どもへの性暴力などに肉薄した作品が寄せられ、しかも力作が目立ちました。
■基金賞=大賞に選ばれたのは、沖縄タイムス社編集局の『沖縄戦 鉄の暴風吹かせない キャンペーン』です。同編集局の応募文によれば、約20万人の犠牲をもたらした沖縄戦も、体験者が年々減少し、継承が危ぶまれている。そこで、「鉄の暴風を再び吹かせないためのキャンペーン」を始めたという。「ありったけの地獄を集めた」と称される沖縄戦の実態が紙面に再現されていたが、選考委員を驚かせたのは、「平和の礎」に刻まれている24万2567人の氏名全員を13日間かけて紙面に掲載したことでした。編集局によれば、全国各地から問い合わせがあったという。「もう、これだけで大賞に値する」。これが選考委員の総意でした。
■奨励賞には活字部門から4点、映像部門から2点、計6点が選ばれました。まず、活字部門ですが、信濃毎日新聞報道部の『連載・ともにあたらしく ジェンダー 地域から』か選ばれました。ジェンダー平等問題に対し、総合的、多面的な観点から深く切り込んだ報道で、選考委では「女性が、あらゆる面でいかに苦闘してきたかが明らかにされている。よくぞここまで書いてくれたなと思う」「信濃毎日新聞は新聞界に新しい取材分野を切り開いたのではないか」との賛辞が述べられました。
同じく奨励賞となった下野新聞社編集局取材班の『平和のかたち とちぎ戦後79・80年』は、重量感のある大作です。推薦人によれば、同社は戦後70年の際に戦争体験者の証言をできる限り記録し、戦争の全体像を捉える報道に取り組んだ。が、その後、多くの方が亡くなったので、「語り継ぐ」行為の重要性を痛感し、再び戦争体験者の証言集めに取り組んだという。紙面には、どこで、こんな戦争体験者を探して来たんだろうと思わせる人が登場する。選考委では「戦争体験は次第に風化してゆく。どうしたら戦争体験を未体験者に引き継いでいけるかを考える時、下野新聞のこの企画が参考になる」との声がありました。
やはり奨励賞贈呈となった東京新聞編集局の『安保関連法成立から10年に関する一連の報道』は、同紙が9月18日から同20日にかけ、一面、二面、社説、特報、社会など各面を動員して展開した一連の記事です。
10年前に成立した安保関連法は集団的自衛権の行使を容認するものでしたから、以来、他国の軍隊との共同訓練や武器輸出が始まるなど、日本の軍拡が急速に進んでいます。東京新聞の一連の記事はその実態を伝え、「日本は専守防衛に立ち返れ」と主張していました。他紙も同様の報道をしていたが、「東京」が一番積極的な紙面でした。選考委では「安保関連法を一般の人に知ってもらいたいという熱意を感じた」との発言がありました。
長崎新聞社報道部若手記者取材班の『被爆80年連載・山川先生の平和ゼミ』も奨励賞を受けましたが、その取材・執筆方法が選考委員の注目を集めました。それは、報道部の若手記者4人が、ベテランの被爆教師の“平和ゼミ”に入門し、ンタビューをしたり、教師を囲んだ座談会を行うなどして得た情報を企画記事にして発表したのです。これにより、長崎の被爆とその後が一層明確になりました。選考委では「実に新鮮でユニークな取材だ」と絶賛を浴びました。
■映像部門から奨励賞に選ばれたのは、まずテレビ朝日の『黒川の女たち』(松原文枝監督)です。1945年に満州開拓に渡った岐阜県の黒川村開拓団は、ソ連兵の暴行や集団自決から住民を守るため、18歳から20歳までの未婚女性15人に“性の接待係”を依頼し、帰国を果たしました。しかし、村幹部の要請に泣く泣く応じた女性たちは傷ついた心身を癒やされることなく、誹謗中傷にもさらされ、辛い戦後を生きてきました。
選考委では「女性への性暴力が止むことのない現在、戦時下の“性の接待”を記録し、歴史に刻むことは非常に意味のあることである。文句なしの力作」とされました。
次に選ばれたのは、製作:川上泰徳、製作協力:きろくびと、川上泰徳監督の『壁の内側と外側 パレスチナ・イスラエル取材記』です。2023年、イスラエルに分離壁で封鎖されたガザ地区からイスラム組織・ハマスが越境攻撃を行い、戦争が始まった。2024年、ジャーナリストがガザへ入ることが困難な中、川上氏が分離壁で区切られたヨルダン川西岸を取材した記録です。選考委では「百聞は一見にしかず。パレスチナの現実がグッと身近になった。兵役を拒否するイスラエルの若者たち。同国内にも、自分の信条を曲げずに戦っている若者たちがいることに希望を感じた。この時期に、この映画を世に出してくれたことに敬意を表す」とされました。
■荒井なみ子賞に選ばれたのは加藤宣子さんの『〈会社〉と基地建設をめぐる旅』です。当基金の創設に尽力した荒井なみ子さん(生協運動家)を記念する賞で、女性ライターに贈られる。この著書は、沖縄本島の辺野古で米軍基地を建設している日本の大手ゼネコンの実態を明らかにしたもので、同書の帯には「ただの請け負い業者なのか? それとも、現代の死の商人か⁉」とある。選考委では「発想がいい」「視点が面白い」との意見が出ました。